神鳥の卵 第14話


「う~ん、僕としてはギアス説より、愛情説のほうがいいんですけどねぇ」

愛情という感情に欠片も興味がなかったはずのロイドは、困ったように言った。
そういえば人間に関してもろくに興味がなかったはずなのに、この男はやけにルルーシュに入れ込んでいる。

「どうしてだ?」
「だって、愛情説ならいずれ僕とセシルくんだって、陛下のお考えがわかるかもしれない。でもギアスが関係しているなら、陛下はもう持ってないんでしょ?僕達はそれで手詰まり。ざーんねーんでした」

大げさなほどの身振り手振りで落胆を示すロイドに「そうですね」とセシルも同意を示した。今のルルーシュにギアスは無い。そもそもこの器は厳密にはルルーシュの元の体とは違うため、ギアス自体最初から持っていないのだ。だから、ギアス説だとどう足掻いてもロイドとセシルはルルーシュとの意思疎通をスザク、C.C.、咲世子レベルで出来ない事になる。

「だが、それはそれで不便だな。なにせルルーシュはまだちゃんとしゃべれない赤子だ。身振り手振りだけでは判別できないこともあるだろう」
「そうなんですよね~。陛下の指示は結構細かいから、どうにかならないですかねぇ」

その身振り手振りと表情である程度は理解出来るが、それには限界がある。前回の新しいゼロ服も、大量の資料を事前に用意し、それを見ながら打ち合わせをすることで、ルルーシュの考えを理解することができたのだ。そのような下準備を一切必要としないスザクたちのやり取りは、見ていても非常に羨ましい。

「どうにかと言われても、ルルーシュとの繋がりだから、ルルーシュのギアスあるいはコードがなければ無理だろうな」

そして不完全なルルーシュは、コードの力も使うことは出来ない。
そんな話をしていると、ルルーシュが何やらうんうんと唸り始めた。
視線をそちらに向けると、何かに耐えるような、今にも泣きそうな顔で歯を食いしばり、ギュウギュウと自分の羽を引っ張っていた。
この羽根は普通の羽根と違って骨が無いのか非常に柔らかく柔軟性があるため、ルルーシュが仰向に寝てもじゃまにならない不思議な羽根なのだが、その羽根がぐいっと引っ張る度に固く強張り、同時にルルーシュの表情も強張りギュッと両目をつぶっていた。これは間違いなく痛みに耐えている顔だった。

「どうしたルルーシュ?なぜ羽根を引っ張っている。痛いならやめろ」

手を伸ばし止めようとすると、ルルーシュは意を決したように目をつぶり息を止め、ぐいっと勢い良く羽根を引っ張った。その勢いでルルーシュの小さな手が握りしめていた羽根が一枚ぷつりと取れた。痛みに震えるルルーシュの眦には涙が貯まっている。

「何をしているんだお前は!?」

突然の奇行に周りはオロオロと様子を伺うしか無く、痛みが引いたルルーシュはきりりとした表情で「なんでもない」とフンと鼻を鳴らした。もしかしたら周りが喧々囂々としていたことで、ストレスから羽をむしったのだろうか。鳥などは自らの羽根をむしることがあると聞いたことがある。だが、ルルーシュは両目をうるませながらも凛々しい表情でその羽をロイドに差し出した。

「僕にですか?」

ルルーシュが頷いたので、ロイドは差し出されたその羽を恭しく手にとった。
先端に僅かな赤みのある白い羽はキラキラとした光をまとっており、ロイドが羽を揺らすと、その光を辺りに散らした。「それがあれば、スザクたちと同じように、俺との意思疎通が可能になるはずだ」そんな表情でルルーシュは偉そうにふんぞり返っている。

「・・・ああ!ホントだ!すごい!」

ロイドは驚いたように両目を見開き、羽根とルルーシュを交互に見た。

「どうしたんだロイド」

C.C.が訝しげに尋ねると、ロイドは楽しげに口を開いた。

「これですよ、この羽根。これがギアスの代わりに陛下と繋がる役目を果たしてくれるんですよ」

今、陛下のお気持ち、しっかりと伝わりましたよ~。
その言葉に、全員の視線が羽根に向く。
神鳥の羽。
そういえば、C.C.は「ルルーシュは全てを知っている」と言っていなかっただろうか。この状況の全てを理解しているが、それを誰にも話そうとしない。ルルーシュとの会話に関しても実は全部知っていて、羽根が繋がりの代わりをすることも知っていたのでは。そう思いルルーシュを見ると「可能性の問題だ。羽が俺の一部であるならば、所持することで俺と繋がる可能性は高い」そして実際に繋がったのだから、これはコードとギアスによる繋がりと考えていいだろう。ようやく涙が引いたルルーシュは、今度は逆側の羽根をぎゅうぎゅうと引っ張り始めた。

「駄目だよルルーシュ!痛いんだろ!?」

痛みでふるふると震えながら羽根を引っ張るのを、スザクは慌てて止めたが「セシルの分がいるだろうが!」と、涙目になりながら睨みつけてくる。

「陛下、私は大丈夫です。必要なときはロイドさんから借りますから」

セシルも訴えたが、頑固者のルルーシュはその程度では引かない、となると。C.C.は息を一つ吐いて、ルルーシュが引っ張っている羽根をつまんだ。意図を察したルルーシュは手を離し目をぎゅっとつぶる。C.C.は一気に力を入れ引っ張るとぷつりと羽根が取れた。

「C.C.!!」

なんて酷いことを!!とスザクは食って掛かるが、C.C.は抜いた羽根をさっさとセシルに手渡し、震えるルルーシュをしっかりと抱き直し、その背を撫でた。

「ルルーシュの力では、なかなか抜けないのはさっき見てわかっただろう?ならば一気に抜いたほうが痛む時間も短くて済む。こいつがセシルに羽根を渡すと決めたんだから、お前がどうこう言うことじゃない。セシル、ロイド。その羽は常に身につけておけ」
「了解で~す」
「わかりました。申し訳ありません殿下、有難うございます」

二人は早速専用のケースを用意し、ペンダントにして首にぶら下げた。




スザクとC.C.だけがルルーシュを完璧に理解できる、という流れも捨てがたかったけど、ゼロレク組全員が理解できたほうが面白そうなのでこじつけてみた。
※キャンセラーを持つジェレミアは、どう足掻いても以心伝心状態になれません。

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